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Kennewickman-24


2012年4月14日。


カヤックをテントへと引きあげていたら、ヨットハーバーに彼の双胴ヨットを係留しているりフィリップ・キャシーが声をかけてきた。彼のヨットに乗り込み話をした。


「コロンビア川は、カヤックで下るような川ではないよ……。太平洋から大陸へと常に吹く海風は、アメリカ西海岸沿いを南北に走るカスケード山脈に遮られる。そしてその風は、山脈を切り開くコロンビア川の渓谷に集まり吹き込むんだ。そこではファンネル効果で風速が増すんだよ。だからコロンビア川では、たいてい下流側から上流側へと強い風が吹き抜けていて、その風と逆方向に流れる水が相まって、三メートルもの波が立つときもあるんだ。俺のヨットでも航行できずに引き返した時があった……。コロンビア川は世界中からウインドサーファーが集まるメッカなんだよ……」


「調べてみたんだが、カヤックで下ったという話はまだ一人だけしか上がってこない……」


「ここから先にはダムが四つあるが、八十年前に作られたかなり古いものもあり、それらの設計時にはカヤックのことなど考慮されていなかったので、通過したり迂回したりすることはできないかもしれない」


使い古した海図を船室のテーブルに広げ、衛星から送られてくる気象情報をモニターで見ながら、フィルは様々な情報を僕に教えてくれた。


日本の川とは全く様相が異なるようだった。そもそも川の中流域をヨットで航行できること自体が我々の想像を超えているが、そのヨットでも越えられぬほどの海のような高波が立つという。まだ一歩も先に進んでいないというのに、濃霧に隠れてはっきりと見えない高くそびえる壁が、幾重にも現れてきた。


前進するしかない。まずは最初のダムまで、何としてでも。

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